<久我の100曲>2曲めは、アニタ・ベイカーの『スウィート・ラヴ』であります。
1983年にデビューしたアニタ・ベイカーのセカンドアルバム『ラプチュアー(Raputure)』からのシングル・カット。
全米8位(同R&B部門2位)と、彼女にとって初のトップ・テン・ヒットとなり、翌年、グラミーのベストR&Bソング賞も受賞。アルバムは11位(R&B首位)、500万枚突破の大ヒットとなりました。
プロデュースは、彼女の出身グループChapter 8で、不遇な時代をともに過ごしたマイケル・パウエル。作曲にはアニタ・ベイカー自身も参画。
久我にとって、アニタ・ベイカーの『スウィート・ラヴ』は、ブラック・コンテンポラリーの極地なんであります。
70年代後半から80年代に入り、ブラックミュージックはニュー・ソウルの流れをくみつつ、タイトでダンサブルなリズムに加え、マイルドで聞きやすい雰囲気、さらにジャズ・フュージョンの高度な和声なども取り込み、より洗練されたブラック・コンテンポラリー(ブラコン)へと進化して行きました(一方、白人によるブラックミュージックの取り込みと洗練の方向性がAOR)。
ブラコンの代表的アーティストとしては、ルーサー・ヴァンドロス、カシーフ、ジョニー・ギル、フレディ・ジャクソン、マリーナ・ショウなど。ホイットニー・ヒューストンもそのくくりで語られるでしょう。
そして、アニタ・ベイカー。
なにしろこのアルバム『ラプチュアー』。そして『スウィート・ラヴ』の洗練ぶりは半端ないです。
まず、楽曲全体を包み込む、この気品あふれたゴージャスな雰囲気は一体なんでしょう。
曲そのものももちろん良いのですが、アレンジを担当し、印象的なピアノをはじめ、すべてのキーボードを担当したSir Gantの貢献が大きいでしょう。マドンナやピーポ・ブライソン、アース・ウィンド&ファイアなどでプレイしてきた彼にとっても、キャリア最高の仕事がここに成し遂げられました。
そして、その華麗な舞台に、歌姫アニタ・ベイカーのヴォーカルが彩られる。
スモーキーで独特の個性にあふれ、エモーショナルに歌い込む彼女のヴォーカル・スタイルは、この時点で完全に確立しています。
さらに、忘れてならないのは、リッキー・ローソンのドラム。
彼のドラミングの特徴は、とにかく「タイト」で「シャープ」ということにつきます。
ここでの彼のプレイ。特に、そのスネア!
ヘッドを高めにチューニングして、リム・ショットも加えながら、とにかく鋭く。ひとつひとつの斬り込みがシャープなのに加え、突っ込み気味のグルーブでグイグイ引っ張るものだから、本当にたまりません。
リッキー・ローソンは、70年代にフュージョン・バンド「イエロー・ジャケッツ」の創設メンバーとして登場し、以降、一流スタジオ・ミュージシャンとして、マイケル・ジャクソン、スティーヴィー・ワンダー、スティーリー・ダン、アル・ジャロウなどなど、ソウルからフュージョンよりのトップ・ミュージシャンの多くの作品に起用されました。残念なことに2013年没(享年59歳)。
久我も、そりゃドラマーにはうるさいんですが、こと「スネア」のサウンドに関しては、ひょっとして、ここでのリッキー・ローソンのプレイが、あらゆるジャンルを超えて「史上最高」ではないかとすら思っているんです(あの、ビル・ブラッフォードの「神スネア」は別格としても・・・)。
実は、久我がオーディオ機器をチェックする際のリファレンスは、この曲とスティーリー・ダンと決まっております。
特に、このリッキー・ローソンのスネアが、タイトに、しかも豊かに「鳴る」かどうかで、音響のほとんが判断できます。
久我は、人気の絶頂にあったアニタ・ベイカーを、ロサンゼルスの野外ステージで見ました。小柄なスタイルから、パワフルな歌声を放ち、自信満々のパフォーマンスを魅せてくれたその姿を忘れることはできません。
そんな彼女も、90年代に入って以降は、キャリア的には今ひとつなような気もしますが、今も繰り返し聞きたい、その楽曲の数々を大切にしていきたいと思っています。
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最後に、チャート的には全米3位と、アニタ・ベイカー最大のヒットとなったこの曲、『Giving You The Best That I Got』を:
ついでに、ブラコンとしては、アニタ・ベイカーと並ん大で好きなルーサー・ヴァンドロス!本当に惜しい人を亡くしました。その功績を讃えて・・・:
想い出深いアルバムです。初めてこのアルバムを聴いたのは、無き六本木ソニースタジオのAスタでした。聴いていたのは桑田さんだったのですが、サウンドの素晴らしいに感動し、自分も買い、何度も何度も聴きました。解説が素晴らしく初めて知った背景もありましたが、やはり名盤ですね。
関島さん、素晴らしいコメントを有難うございます。六本木ソニースタジオ!桑田さん!その状況がまず素晴らしすぎますね。今後もよろしくお願います。 久我